退職金とiDeCoの受け取り方でゆらいだ私の結論
私は2024年末、55歳で会社を退職しました。
勤めていた会社には「企業型確定拠出年金(企業型DC)」制度があり、在職中は毎月掛金を拠出していました。
退職直前に会社から届いた書類には、「退職金の受取口座」と「退職所得控除を使うか否か」の確認欄がありました。
「控除を使わないと損だろう」と考え、迷わず「利用する」に丸をつけて返送しました。
当時は、企業型DCやiDeCo(個人型確定拠出年金)の税制を深く理解しておらず、
「社員が損をしないような制度設計になっているはず」と思い込んでいました。
退職金は無事に満額振り込まれ、税金も引かれていなかったため、「これで問題なし」と安堵していました。
しかし退職から1か月ほど経ち、企業型DCの「積立結果のお知らせ」が届いても、移管に関する案内はなし。
改めて制度を調べるうちに、退職金とiDeCoの受け取り方によって税金が大きく変わることを知り、愕然としました。

iDeCoと退職金 ― 控除が重なるときのルール
iDeCoの一時金も退職金と同じ「退職所得」として扱われます。
どちらにも「退職所得控除」が適用されますが、勤務期間とiDeCo加入期間が重なる場合は控除額の調整が必要になります。
例①:22歳入社、40歳からiDeCo加入、60歳でiDeCo受取、65歳で退職する場合
- iDeCo受取時(60歳)には、加入20年分の控除「40万円×20年=800万円」が使えます。
- 65歳で退職金を受け取る際の勤続43年分の控除は「800万円+70万円×(43−20)=2,410万円」。
- ただし、iDeCoで使用した800万円分を差し引く必要があります。
例えばiDeCoで200万円の控除を使った場合、退職金の非課税枠は「2,410−200=2,210万円」となります。

例②:22歳入社、55歳退社、55歳iDeCo加入、60歳で解約(重複なし)の場合
この場合、退職金とiDeCoは別々に控除を計算できます。
- 勤続33年 → 控除額「800万円+70万円×(33−20)=1,710万円」
- iDeCo5年加入 → 控除額「40万円×5年=200万円」
たとえば退職金500万円、iDeCo600万円の場合、
退職金は非課税にできても、iDeCoの方では控除が少なく課税される可能性があります。

私が後悔した点
私のケースはこの例②に近いものでした。
退職時に「退職所得控除を使う」と即決してしまい、iDeCoの受取順序を考えていなかったのです。
結果的に、退職金で大きな控除枠を使い切ってしまい、iDeCo受取時に非課税枠が足りなくなりました。
もし当時、控除の仕組みを理解していれば、退職金とiDeCoの受取時期を調整して税額を抑えられたはずです。
「知らなかった」で終わらせるには、少し悔しい経験でした。

退職金・iDeCoの控除ルールは2026年から変わる
調べていくうちに、制度改正の「転換点」があることもわかりました。
- 2025年12月31日まで:退職金とiDeCoの受取間隔が5年以上あれば別扱い可能
- 2026年1月1日以降:この間隔が10年以上に延長
- 退職金を先に受け取る場合は、別途「19年ルール」も関係する
つまり、2026年以降はiDeCo受取から10年空けないと控除を別々に使えないということです。

(参考)控除額の計算の流れ
以下は、退職→iDeCoの順で受け取る場合の計算イメージです。
細部は税務署や金融機関に確認が必要ですが、考え方の参考として掲載します。
- 退職金額からみなし勤続年数を算出
例:退職金が500万円 → 500万円 ÷ 40万円 = 12年
(22歳から55歳の33年ではなく12年の勤務期間と扱う) - iDeCo加入期間を確認
例:55歳〜60歳までの場合は5年 - 重複期間を判定(みなし退職年とiDeCo開始年の関係)
→ 重複がなければ独立扱い - iDeCoの退職所得控除額を算出
加入年数 × 40万円
(20年超は、800万円 + 70万円 × 超過年数) - 重複期間による調整
調整後控除額 = 控除額 − (重複年数 × 40万円)
やや複雑ですが、概算でも「どちらを先に・何年空けると得か」を把握する価値は大きいです。

これから退職・FIREを考えている方へ
これから早期退職やFIREを考える方は、
次の3点を整理しておくことを強くおすすめします。
- 勤続年数
- 退職金額
- 企業型DC・iDeCoの残高
退職金とiDeCoは、どちらも「退職所得控除」を使うため、
受け取りの順番や間隔で税金の差が数十万円単位になることもあります。

まとめ
退職金とiDeCoは、どちらも老後の生活を支える大切な “二本柱” です。
しかし、受取の順番や時期を少し誤るだけで、思いがけない税金が発生することがあります。
私自身、退職時には「控除を使えば安心」と思い込み、結果的にiDeCo受取時の控除枠が少なくなってしまいました。
制度の複雑さを実感すると同時に、「もっと早く調べておけばよかった」と何度も感じました。
これから退職やFIREを考えている方には、「自分の勤続年数・退職金額・iDeCo残高を一度数字で整理してみる」ことをおすすめします。
少し面倒でも、受取順序や時期を意識しておくことで、後々の安心感が大きく違ってきます。
私の経験が、皆さんの老後資金づくりに少しでも役立てば幸いです。



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